月の記録 第30話


信じられない光景だった。
食堂へ行くと、いつものメイドが給仕していた。それは普段と変わらない光景だが、その料理を作っているのが、あの気難しやで無能と言われている黒の皇子なのだ。大きく長いテーブルに、ラウンズであるスザクとジノ、そしてほかの護衛兵たちが勢ぞろいし、席についている。ゆうに20人を超える人数だが、その全員の食事を、皇族であるルルーシュが作っているのだという。
嘘だろう?と思い、失礼とは思いながらもスザクはジノとともにキッチンを覗き見た。もちろん護衛である二人は「殿下の安全確認のためです」という正当な理由があるのだが、なぜか二人はこそこそとキッチンのドアを細く開け、中をうかがった。メイドの言う通り、中でせわしなく動いているのはルルーシュ。しかもその顔はどこか生き生きしているように見えた。

「ほら、さぼってないでその鍋をちゃんと見ていろ!」
「なんで私までこんな・・・私のピザはどうした、ピザは!」
「お前がいま煮込んでいるのが、ピザ用のソースだ」
「な!?こ、これはピザの・・・それを先に言え!」

そんな会話を魔女としているのだ。
・・・なんだか仲がいいんじゃないかこの二人。
服装はさすがにシャツ一枚からワンピース&エプロンに代わっている魔女と、皇族服から白いシャツと黒のスラックスにエプロンという服装に着替えたルルーシュの姿は、はたから見れば美男美女のカップルが仲睦まじく食事の支度をしているようにしか見えない。 邪険に扱われている自分たちの差を見せつけられている思いがして、非常に気分が悪かった。

「覗き見とは、いい趣味をしているじゃないか」

はっと気が付いた時には魔女が扉の前にいて、薄く開けられた扉から、こちらを覗き見ていた。にやりと、小馬鹿にする笑みを浮かべながら。

「覗きではなく、殿下の護衛のため」
「ならば堂々と入ればいいだろう?そんな隙間から覗くのではなく、な」

C.C.はそういうと、キッチンの扉を大きく開けた。
それだけのやり取りをしていれば、当然ルルーシュの耳にも入るし、遮るものがなくなったのだからその姿も視界に入る。

「何をしている、さっさと食事に戻れ」
「いえ、自分は殿下の護衛です。邪魔にならないよう、ここで」
「護衛など不要だ。ここには魔女がいる」

絶対の信頼。
ルルーシュの言葉からそれが感じられた。

「そう、ここには私がいる。邪魔だぞセブン」

絶対の自信。
C.C.の言葉からそれが感じられた。
その関係を、自分がどれほど求めていたか。
突然現れて、あっさりその位置に立った彼女が妬ましく、知らずにらみつけるような視線を送ってしまった。だが魔女はそれが心地いいとでもいうように、楽し気に口元に弧を描いた。





信じられない思いがした。
皇族であるルルーシュがプロ顔負けの料理を作れたことにももちろん驚いたが、それ以上にこの魔女に驚かされる。何度も言うが、皇族であるルルーシュに料理を作るように命じ、あの気難しい皇子が文句ひとつ言わずに従った時点で、この魔女に畏怖の念を感じたが、まさか、まさかだ。広いラウンジに置かれたソファーでルルーシュが読書を始めたら、魔女はいつの間にやらまたシャツ一枚の服装に戻り、長椅子のほうにだらしなく寝そべりながら、夕食もしっかり食べたというのに、とろりと溶けたチーズを乗せたピザを食べはじめたのだ。寝転がりながらシャツ一枚でだらけ切った姿で。男だらけの護衛と、皇族がいるにいも関わらずだ。
服装に関しては、何度かルルーシュの注意が入ったが、魔女は一向に着替えるようすがなく、結局ルルーシュのほうが諦めて、今のこの形に落ち着いたわけだ。
護衛としてそばにいるスザクとジノはもちろん、ほかの護衛たちも唖然とするほかなかった。これが魔女。ブリタニア皇族ですら勝てない相手。いや、見下している感は互いにあるから、皇族と対等の存在なのか。
イライラとしながら魔女を睨みつけているナイトオブセブン、あまりにも無礼な態度に腹を立て、殿下に悪い影響を与えるとイラだっているナイトオブスリー。
広いラウンジとはいえ、皇子、魔女、セブン、スリーのこの空気ははっきり言って居心地が悪く、早く交代の時間になってくれと、現在護衛の任についている兵士は心の底から願っていた。

そんな時、ジノの携帯に緊急連絡が入った。

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